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21世紀の社会を切り拓く「地域三世代子育て支援」

『ミニデイを活用した地域三世代子育て支援事業報告書』より

長寿社会文化協会元会長 一番ヶ瀬康子


長寿社会文化協会(WAC)は、平成11年以来5年間にわたり、地域三世代子育て支援を中心としてさまざまな事業を展開してきた。その最大の理由は、少子・高齢化社会の急激な進展のなかで、長寿社会がいかにあるべきかということを考えた時、地域で子どもとシニアが触れ合い、シニアが子育て、子育ちに、関わることが、親の生活を助ける、あるいは、親が喜んで子育てを行うあり方を創り出すことになるとの認識からであった。そして、それは、シニアの生き甲斐でもあり、子どもの発達にとっても有意義であると考えたからであった。

ことに国際高齢者年のスローガンは、前者のことを明確にしている。つまり、今後の人類未曾有の高齢社会のなかで、高齢者のみが人権を保障されて生き延びる社会ではなく、「すべての年齢のものが共に生きる社会」を築かなければ、高齢者自らの生活も暗く、またそれを支える子どもも育たない。同時に、子ども自体の人生も歴史のなかでの継承すべきものが明確になっていかないというさまざまな問題が出てくるからである。

日本においては、長い間の家族制度のもとで、そしてその後の核家族化にともなう、いわゆるマイホーム主義の壁において、子育てが次第に我が家と保育所や幼稚園あるいは学校とに二分化されて、地域におけるそれが欠落しがちになってきた。ことに都市においては、近隣関係が成り立たないまま孤立した生活のなかで、しかも昔と違って建築様式が変わり近隣との関係が途絶えがちなマンション生活などで、親はもとより子どもたちは、まったく孤立した状態におかれてきたといっても言いすぎではないであろう。そのなかで、昨今の児童虐待また子どもの犯罪などなど、かつて見ないほどの児童問題が噴出してきているのではないだろうか。

かつて1963年、児童福祉白書が厚生省から出された時に、"日本の子どもは危機的状態にある"といわれたことがあるが、まさに今はそれ以上に危機的状態にあるといえよう。このことはシニアの立場からいっても親の立場から見ても、あるいは教育や福祉の視点からも、賛同する人が少なくないと思われる。

ことに今のシニアは、敗戦直後、焦土化した日本のなかで文化国家、福祉国家を作ることに世代的使命感を感じて生きてきた人が少なくない。その気持ちの根底には、未来の国民、子どもたちが健やかに育って、よりいい日本を担ってくれるであろうことを願っていたからである。にもかかわらずまったく一転してしまった社会のなかで、シニアはあきらめきれない気持のものが少なくない。またあきらめてよいものではない。元気な限り世の中の役に立つこと、子どもと何らかの関わりをもつことを通じて、自らの想いを発揮することにもなるのではないだろうか。

地域三世代子育て支援は、その意味においてシニアの生き甲斐とともに、子育て、子育ち、そして親への支援をどうシステム化するか、そしてそれはどのような在り方によって効果を挙げるかということを、いろいろな経験や体験を交流しあい、またシニアの認識、子どもの発達等の面から見極めていくことが重要である。さらにそれをどのように地域住民がバックアップするかと同時に、地方自治体、国が支援するかということについても展望をひらく必要がある。その意味において、今回の報告書は、5年間の中間まとめ的な意味をもつとともに、その経過を通じて、認識できたことを整理し、国および地方自治体その他関係機関に、政策提言として明らかにすることを試みた。

この報告書ならびに政策提言が、WACの会員をはじめとして関係諸グループの実践そのものから生まれたことであるだけに、新たな21世紀の長寿社会の在り方を切り拓く貴重な証言となり重要な戦略として、是非活用していただきたい。

臆して引っ込めば長寿社会は、暗黒社会と化すであろう。自ら学び、意見を述べながら、何よりも実践を通じて社会を切り拓く在り方こそ、長寿社会を明るい文化に満ちた社会にすることが出来、未来への展開をなしうると確信する。

この報告書ならびに政策提言が、積極的に活用されることを期待してやまない。

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