WAC痴呆高齢者ケア アメリカ視察報告

WAC痴呆高齢者ケア アメリカ視察報告【1】

16‐22 June 2003
『ふれあいねっと』2003年9月号より転載

シカゴ市デアフィールドにあるアシストハウスの前でシカゴ市デアフィールドにある アシストハウスの前で 平成15年度日本財団助成事業「痴呆予防」の一つとして6月16日から一週間、アメリカの痴呆予防について視察研修を実施した。8名の視察団は、新型肺炎SARSの恐怖とイラク戦争後のテロ警戒という障壁を越え、大きな成果を持ち帰った。アメリカの痴呆予防システムの一端を紹介する。


1)ユダヤ人高齢者協議会付属高齢者向け通所施設
1)(シカゴ市エヴァントン)
 痴呆事業の指導者でデイサービス施設長エディ・ショワッチさんに、日本で言う通所介護施設「アダルト デイサービス センター」を案内してもらう。元スーパーマーケットの建物を改造し、大人向け通所施設をつくった。通所する人は痴呆や片麻痺の人などの混合型。1日53ドル、特別なケアが必要な場合には、さらに60ドルを上限にサービスに応じて追加払いする。アクティビティはアートセラピー、園芸療法、ダンス、絵画、音楽、体操など多彩。専門の看護師、心理療法士、ソーシャルワーカー、アクティビティ指導者など大勢いて、利用者の作品が随所に飾られていた。

2)同じユダヤ人高齢者協議会が経営する初期アルツハイマー養護施設
2)(アシストハウス)(シカゴ市デアフィールド)
 日本で言うケア付きハウスだが、ユダヤ人高齢者協議会が寄付を集めて理想のケア付きハウスを建てたのだそうだ。高齢者の目にやさしい間接照明が施され、北欧の施設もかくやという美しい施設だが、終身利用はできず、大便の排泄が不自由になるとナーシングホームに転居することになっている。ヨーロッパの王宮の回廊庭園をまねて、庭の通路を8の字型にしている。痴呆の入居者が自分で料理するためのアクティビティキッチンが設置されていて、痴呆のケアに大変効果を発揮しているとのことだった。リハビリに回想法を活用し、利用者たちは花の咲き乱れる美しい庭にイスを輪に並べて看護師をリーダーに話をしていた。

 その後、ナーシングホームのレセプションルームに移動し、フルコースの昼食をご馳走になった。ユダヤ人高齢者協議会が老人介護に心を砕く一つの理由は、高齢ユダヤ人の多くが若いときに強制収容所などでナチスの迫害にあったので、老人になると精神的困難に陥いるケースが非常にあって、ケアが大変なため、心理学の立場からアプローチし、一貫した手厚いサービスを提供する、米国の中では特異な介護体制を構築しているとのことだった。

3)アルツハイマー協会イリノイ圏支部(シカゴ市スコーキー)
 ここでは、教育事業次長フラン・ハンキンさんからアルツハイマー病に対する一般市民向け理解を深めるレクチャーの仕方を学んだ。スライドを使って、アルツハイマー病とは何か、アルツハイマー病の初期症状とはどういったものか、家族への支援方法などコンパクトに整理されたわかりやすいレクチャーで、日本で翻訳したらよいのではないかと思った。


4)アルツハイマー協会本部(シカゴ市市街)
 企画広報担当上席副会長 キャサリーン・オブライエンさんと人事担当副会長メリー・カールさんに表敬訪問。フロアー半分を占めるセーフ・リターンプログラムのための24時間電話サービスセンターがあった。そのほか、図書館があり、各種痴呆ケアに関するプログラム開発の拠点になっているとのことであった。

 セーフ・リターンプログラムというのは、97年から連邦政府や地方政府が出資し、アルツハイマー協会が運営する徘徊老人を安全に保護し無事に家に返す事業で、実に7万5千人の徘徊老人(99%)が帰還している。まず徘徊のおそれのある人は、アルツハイマー協会に40ドルで終身登録し、協会からペンダントや腕輪、首飾りなどに刻印してある個人登録番号を受領し、肌身離さず着けておく。徘徊しているところを警察や市民に保護されると、保護した人はアルツハイマー協会に連絡する義務を負う。協会はデータベースで自宅や保護者を捜し出し、無事、家に戻れるように連絡、調整する。

 日本では年間約300人の人が徘徊で亡くなるが8%は遺体さえ見つからないのだ。セーフリターンプログラムのすばらしさに驚嘆した。

WAC痴呆高齢者ケア アメリカ視察報告【2】

16‐22 June 2003
『ふれあいねっと』2003年10月号より転載

痴呆性高齢者をかかえる家族のサポートグループ
NYにある国際長寿センターNYにある国際長寿センターアルツハイマー協会NY支部を見学するメンバーアルツハイマー協会NY支部を 見学するメンバー

 2003年6月、日本財団の助成事業「痴呆予防研究事業」の一環として、「WACアメリカ痴呆症予防教育プログラム」の視察でアルツハイマー協会ニューヨーク支部を訪問しました。アメリカでは400万人の痴呆患者がいるそうです。医療費が高いので、かつてはナーシングホームで死を迎えた患者も今では自宅に戻る傾向にあり、在宅ケアが盛んです。そこで聞いた家族ケアについて報告します。説明してくれたのはアルツハイマー協会のカリナ・ウェンディさん(2002年度日本の内閣府の青年交流研修でWACへ高齢者疑似体験「うらしま太郎」の研修にきました)とフラン・ハンキン教育事業担当次長のお二人でした。

サポートグループを組織化
 「痴呆の人をケアしている家族のサポートは大変重要です。痴呆と医師から診断され、告知された人やその配偶者は、人生で最もつらい試練に立ち向かわなければなりません。なぜなら、アルツハイマーと告知されるとたいていの人は心理的な傷を受けます。それは記憶障害が死ぬまで治らず、進み方に個人差があっても確実に進み、病気との戦いを何年もしなければならないからです。しかも、患者は病気と闘うことの困難さを自覚できません。アルツハイマー病は脳に萎縮がおこり、萎縮が拡大する度合いに応じて、記銘障害(短期記憶障害)が進み、認知障害、見当識障害、コミュニケーション障害とさまざまな障害が表れ、買い物ができない、トイレの場所がわからない、家族が誰だがわからないなど一人で日常行為ができなくなってしまいます」。

 そのため、アルツハイマー協会の設立時から25年かけて家族介護者のためのサポートグループを組織したそうです。現在ニューヨーク支部には111のサポートグループがあります。告知されたばかりの人は短期間の初期サポートグループに参加して、アルツハイマー病について学び、対応の仕方、ケアの仕方、さまざまなサービスについての情報を得ます。そして自分に適合した継続的サポートグループを紹介されます。(紹介先が自分に合わなかったら、また別のグループを紹介してもらえます)

文化的背景や患者との属性を考慮
 サポートグループの目的は、第一段階は、①アルツハイマー病の診断を受けて、不安を持った人の恐怖を取り除きます。②記憶障害による症状とその周辺行動(暴力行為、徘徊、物盗られ妄想、弄便など)についての知識や対処法の学習。③言葉を失うというような最終状態に進行することも教えます。サポートグループは介護をしません。あくまで、精神的なサポートをします。

 継続的なグループは、毎月2回開催され、1回1時間15分程度の会合で、参加者が4人から12人ぐらいの少人数制で、意識高揚のグループ討議をします。介護をしている家族は、一人一人発言します。なぜ自分だけがこんな目にあわなければならないのかという怒りや苦しみ、悲しみ、混乱、どうしようもない気持ち、これからどうなるかわからない不安など、正直に率直に感情を吐き出します。そして、自分だけではなく、それぞれの家族が困難なケアに立ち向かっていること、仲間がいることなどを確認する心理的精神的なサポートです。さらに、日本のように介護保険や医療保険などの公的サービスがないので医療費がかさみ経済的な苦しみを家族は抱えています。そうした問題をサポートする情報も提供します。

 紹介されるグループは、居住地に近いことはもちろん、その人の文化的背景、患者との属性も考慮されます。文化的背景とは、個人主義の強い欧米系、家族関係が複雑なアフリカ系、家族主義の強いアジア系などの文化的差異を言います。また英語、スペイン語、韓国語など104の異なる言語を話す市民が暮らすニューヨークという多文化・多言語の土地柄のため、言語の違いも考慮され、グループはそれぞれ別々に編成されています。

 さらに、ケアする家族の属性の違いによってもグループ分けされています。たとえば、若い妻の会(40代〜50代の夫を持つ女性の会)、高齢の夫の会、高齢の妻の会、親のケアをする娘の会、親のケアをする息子の会……など。

 そして、さらに病気のステージ(軽度、中度、重度)によっても区分けされ、患者の病状の進行によって所属するグループを移動していきます。

 サポートグループはケアをしている家族の他に、グループリーダーとして医療福祉の専門家やソーシャルワーカーが参加しています。リーダーには月間2回などというように定期的な研修が課せられます。ケーススタディやスーパーバイズ、メディケア(67歳以上が対象の高齢者向け医療保険)やメディケイド(生活保護的医療保険)、経済援助など各種サービスの学習などをします。

参加費無料、専門家はボランティア
 サポートグループのコーディネーターは、参加者がグループ討議では効果がない場合、ニーズにあったセラピストを紹介します(セラピストはピンからキリまで、値段もいろいろです)。

 ちなみに、サポートグループの参加費は無料。グループリーダーも全員無報酬のボランティアです。リーダーは主に専門家ですが、中にはサポートグループの卒業生もいるそうです。「現在、妻を見送った70代の男性リーダーは大変良い活動をしています」と紹介されました。

 ケアをしている家族がサポートグループに参加するとき、患者を同行しますかと質問したところ、患者がいると家族は患者が気がかりで、自分の心のケアに集中できないから、患者がデイケアなどに行っている時間にサポートグループの会合に参加するとのことでした。フラン・ハンキンさんが「私も一つの『親をみている娘の会』に所属していて、リーダーをしていますが、ナーシングホームに親を預けているので精神的に余裕があるからリーダーが務まります」と付け加えました。

 日本でも2020年には痴呆患者が300万人に増加すると言われており、特別養護老人ホームに入所することは難しく、地域の小規模多機能のグループホームで生活できれば良いと言われています。しかし、グループホームでは末期の患者をケアする終末ケアが困難です。大多数の人は自宅で家族にケアされるのではないでしょうか。痴呆の人の日常生活を支えるという困難なケアに取り組む家族をサポートするより良いシステム構築が望まれます。