フィンランド研修旅行報告

2002年5月29日〜6月5日、フィンランドの痴呆高齢者へのケアに関する視察旅行を実施しました。
2002年8月27日に開催された「第3回痴呆コロキウム講演会」で行ったフィンランド視察旅行の報告を掲載します。

フィンランドにおける痴呆高齢者の介護について

鷲巣栄一(フインランド大使館 技術顧問)

フィンランドにおける痴呆高齢者の介護について【1】

2002年8月27日 第3回痴呆コロキウム講演会より


 私は、通信技術関係の技師で、10年ほど前にWACでヘルパーの資格をとり、3年程前にフィンランド大使館の方へ移って技術顧問の仕事をしています。フィンランドとしても日本の介護に協力したいという話が出まして、お手伝いすることになりました。そして2年ほど前から、特に痴呆症の高齢者の介護が、日本では大きな問題になってきましたので、フィンランドではどうなっているのかということを見てみました。ヘルシンキの郊外のパキラという所に老人ホームがあり、日本の立川にある「至誠ホーム」と提携して職員の交流とか痴呆症の介護技術の交換などをしていることがわかりました。そこでパキラの老人ホームに何度か足を運んでみました。とくにヘルパーさんのお年寄りへの接し方が日本と随分違うということに気がつきました。そして、先方から、「痴呆高齢者の自立生活のために--身体能力を維持・増進する移動の介助--」というイギリスで出版されたローズマリ-・オディさんの本を紹介されたました。その本をベースにして平成13年度1年間、WACで「痴呆症の人の身体移動についての勉強会」を開きました。その結果、WACのほうでも痴呆症の方の介護についてもっと深く取り組んでみようという話が出てきまして、フィンランドの痴呆性高齢者の介護を実際に見に行ってみようという計画が持ち上がり、5月から6月にかけて約1週間、フィンランドに研修旅行に出かけました。

 今日はまず、そのフィンランド研修旅行について、お話をさせていただきます。フィンランドはご存じのように人口は500万人、北海道より人口が少ない国です。国土は日本から九州を抜いたぐらいの大きさの国ですので、何をやろうとしても人が足りません。足りないところをサービスを落とさないで技術でカバーしようということで、福祉の分野にも思い切って新しい技術をどんどん取り入れています。その技術開発は「iWELL」という名前で、国家的なレベルで通産省と厚生省が一緒になって開発をしています。研修旅行のお話のあとに、この技術開発のお話をさせていただこうと思っています。

「2002年フィンランドの旅」の報告(2002年5月29日〜6月5日)



―フィンランドにおける痴呆性高齢者の介護を学ぶ―

 まず最初に訪問したのは、ヘルシンキ市とオウル市です。ヘルシンキでは厚生省の研究開発センター「スタケス」、それから福祉機器を作って販売している「レスベクター社」という展示センターを訪問しました。レスペクター社は今は完全な民間経営ですが、元は政府系の会社でした。それから、ヘルシンキ市営の老人ホーム「クスターン・カルタノ・サービスセンター」を見学しました。それから、フィンランドでも福祉と医療の研究の中心的な都市、オウル市に移動しました。そこでは、「テケス」の「iWELLプロジェクト」、オウル市経営の保育園と高齢者の統合施設「マイックラトイボ」、そしてオウル市の高等職業専門学校を見学しました。この学校では非常にシステマチックにかなり充実した教育プログラムで介護スタッフを教育しています。オウル市ではこの3つを見学しました。

 まず、最初に行きました「スタケス(社会福祉保健研究開発センター)」ですが、ここは日本の厚生省にあたる社会保健省の研究センターになっています。いろいろな研究をしている中でも、社会保健福祉事業の質・方法の評価と研究開発の研究を行っていることが特筆されます。最近では、補助器具の技術開発にかなり力を入れています。次に、フィンランドにおける75歳以上高齢者の介護サービス利用度の変化ですが、統計によると家事サービス・補助サービスともやや減ってきています。家族の介助サービスも減っていますが、サービスホームへの入居が非常に増えているという状況です。

 フィンランドは、現在は成功した国と言われていますが、10年前は日本と同じようにバブルがはじけ、しかもその直前の1989年には貿易の最大の相 手国であるソ連が崩壊したために、失業率が20%を超えるなど、大変厳しい状況になりました。しかし、福祉の世界はサービスを落とさずに、そのかわり新技術の開発に力を入れて、貿易で外貨を稼いで国民生活を維持していくという方向できています。フィンランドの高齢化率の予測は、資料にありますように、2010年で17%、日本と同じような構造で、どんどん高齢化が進んでいます。

 フィンランドの社会福祉政策は、基本的にはサービスの質とか内容については国・中央で決めますが、実際のサービスは各自治体が能力に合った範囲内で実行していくことになっていますので、地域によって格差が非常に大きく出ています。格差があるからといってそのままにするのでなく、遅れているところに対しては絶えず勧告を出して、どうやってサービスのレベルを上げるのかという対策を自治体に求めていき、全国のサービスを進めています。したがって中央から「ああしなさい、こうしなさい」という形で指示を出すのではなく、自治体が自分で計画して実行していかなければならないという仕組みになっています。

 痴呆症の介護をしている施設のスタッフの数は理想的には、入居者10人について8人と言われています。そして現在は入居者の80%が痴呆症の高齢者です。2年前に私がパキラの老人ホームに行き、「日本は痴呆症の高齢者が非常に増えて困っています」という話をしたところ「フィンランドも同じです。別に日本だけではなくて、フィンランドも痴呆症の人が非常に増えて、一生懸命介護の研究をしています」とを言っていました。パキラの老人ホームも85%〜90%の方が痴呆症で入居されていました。現在の全国平均値としては、老人ホームの介護スタッフは入居者10人に対して4.2人です。

 次に痴呆症に対するサービスの変化ということで、特に大事なことは、ひとつは在宅で介護する家族に対する痴呆症のケアについて、いろいろなサービスを行っていることです。それから、施設の介護スタッフの方に対しても、いろいろな技術、ケアの仕方、あるいはケアを改善する方法について、きめの細かい教育が行われています。そして、痴呆症の介護については、ほとんど毎年のようにサービスの提供の仕方を工夫し、変えています。

 加えて、フィンランドでは痴呆症を予防していこうという「予防的介護」の考え方がはっきりしています。そのひとつは、痴呆症というのは病気ではない、ただその予見がむずかしいという考え方です。もうひとつは、積極的な予防的介護を実施していこうという考え方です。たとえば、痴呆症になってからは新しい生活環境になじむというのは非常にむずかしいので、痴呆症になる前に生活習慣、あるいは器具の使い方をあらかじめ認識しておく、少し使ってみるということなどを進めています。それから、痴呆症になってもできるだけ自分の家で暮らせるように、あるいは施設に入っても生活の質を確保できるように、自分の足で立って動くということを非常に重視しています。日本ですと、とかく寝たきりにさせてしまうとか、あるいは車いすに乗せてしまうということが多いのですが、フィンランドは施設でも家庭でも、最後まで自分の足で立って移動するということに積極的に取り組んでいます。したがって足のケアというものを非常に重視していて、たとえば介護施設に行きますと、お医者さんの部屋というのはありませんが、フットケア、足の治療をする部屋が各フロアに1つずつくらいあります。約40から50人に1人くらいの割合でフットケアの部屋があり、そこには週に2、3日専門のお医者さんが来て、足のケアをしています。具体的には、たとえばリウマチで歩けない、あるいは外反母趾が悪化して歩けないというときには、診察や靴のデザインなどをしてくれて、それで特別の靴を作るとか、あるいは弱っている筋肉を見つけ出して、足の体操をさせます。そして、足の骨折に対しての治療を行っています。

フィンランドにおける痴呆高齢者の介護について【2】


 次の『高齢者への介護サービス―その質を向上させるために』というタイトルの本は、先ほどお話しした「スタケス」という研究センターが作っている介護サービス用の研修テキストです。みなさんのお手元にお配りした3枚綴りのプリントで、1枚目に「ご親族の方へ」、2枚目が「介護計画」、3枚目が「クライアント情報」という資料があると思います。これが、テキストの中に入っている実際の部分を抜粋したものです。フィンランドでは、こういう情報をケアする人と家族との間でやりとりしながら介護をしているということです。詳しい内容目次は資料にありますので、のちほどご覧になっていただければと思います。さらに、介護サービスを受ける側として、どうしていったらよいか、どうしてほしいか、ということを書いたテキスト『痴呆症介護サービスのクライアントとして』も作られています。内容は、実際に介護する人、家族などが、 どういう点に注意したらよいかということが書かれています。次にありますのが、在宅で暮らしている痴呆症の人を介護している家族のために配られている小冊子「よりよい日常生活のために 痴呆性高齢者の在宅介護―家族への提案」ですが、ここでは非常にわかりやすく、痴呆症とはこういうものですということが書かれています。こういう情報がきちんと介護するスタッフだけではなく、家族の人にも配られているわけです。

 次にヘルシンキ市営の高齢者サービスセンター・老人ホーム「クスターン・カルタノ・サービスセンター」です。非常に大きな施設で、フィンランドで2番目の規模を誇っていると言っていました。入居者数は630人、スタッフは450人。ここはいわゆる入居型の老人ホームと、高齢者のサービスセンターがあり、近くの高齢者が通ってきていろいろなサービスを利用する2つの施設があります。写真はこの施設の所長・ヨウニ・ペルトマーさんで、バックに見えているのが事務棟、その左半分が集会室になっています。次は集会ホール、これは身体障害者が中心の老人ホームの一コマです。次の写真は痴呆性高齢者のフロアのリビングルームです。後ろのほうにちょっとした調理器具が並んだ台所がありまして、飲み物などはここで提供できるようになっています。次の写真ですが、左側が痴呆症の建物に入るときの入り口のです。フィンランドの場合、立派な玄関というのはほとんどなく、玄関ロビーも小さなロビーがある程度で、日本の特別養護老人ホームのような、ホテルと間違えるほどの立派な玄関とかホールはついていません。右側の写真は、入居している高齢者です。次の写真は居間と、右側が屋外にある団らんスペースです。ここでは夏にはバーベキューをやったりするのだと思います。こういういろいろな設備があります。
 フィンランドの施設ではどこでも同じだと思うのですが、この老人ホームでもスタッフの教育を非常に重視しています。特に痴呆性高齢者の介護は、わからないところが非常にたくさんあります。ですから、全国的にヘルパーさんが毎日のようにまず、できるだけ客観的な視点から記録をとり、それを集めて週に1回〜2回、専門のスタッフや大学の専門の先生などと一緒に、記録したものを元にして勉強会などを行い、「もっとこういう介護をしたほうがいいのではないか」と検討し合う、介護の改善を、ほとんどの施設で行っています。そして、今度はそれを元にして全国的に新しいマニュアルを作り、新しい介護をやってみようという動きが、介護スタッフの間にできています。そういうことで、痴呆症のケアの問題をひとつひとつ解決していっています。お医者さんから「ああしなさい、こうしなさい」と言われて行うのではなく、ケアスタッフの力で痴呆症の介護システムを作っていこうという体制になっています。
 パキラの老人ホームで教えてもらったのですが、10年ほど前にフィンランドで痴呆症の高齢者が社会問題になったときに、当初はお医者さんのリーダーシップの元で介護をしていたのですが、途中で医者のほうから、医者がいくら治療しても改善できない、生活中心型の介護をしたほうがいいということをはっきり言われて、お医者さんが痴呆ケアの第一線から退き、その代わり介護スタッフの人が前面に出てきて、日常の生活の中から介護を改善することが行われたそうです。そのときからフィンランドでは、特に痴呆症の高齢者の介護というのは、医者ではなくて介護スタッフが中心になって改善をしてシステムを作っていくという一つの大きな流れがあります。その関係もあり、現場での勉強会は非常に活発に行われています。どんな介護をしていても必ずスタッフは小さなメモ帳を持っていて、記録をとり、それを集めて職場で勉強会をしていき、その結果をまとめて年に1回くらい、どの施設も施設固有のマニュアルを作っています。
 ここの老人ホームのユニークなサービスとしては、パソコンや電子メール、ケーブルテレビを利用していることです。これはたぶん大規模な施設だからできるのでしょう。そして、施設には、近隣の高齢者が通ってきてサービスを受けるサービスセンターとしての機能ももっています。そういう大きな施設です。
 次にオウル市の統合ケアサービスをしている施設「マイックラ・トイボ」を訪問しました。保育所と高齢者サービスホーム、教会が併設されたフィンランドでも珍しい統合型複合施設です。保育児童が100人、入居している高齢者は15人、スタッフは30人です。左側の写真が施設長ライヤさん。右側の写真が保育所や高齢者施設の利用者の人たちです。ちょうど私たちが訪問したときが保育園の卒園式の日で、いろいろなゲームなどを楽しんでいる最中でした。右側の写真は入居している高齢者です。次の写真は高齢者の部屋ので、非常に広い部屋で、ゆったりと暮らしていて、とても恵まれていると思いました。写真は一人暮らし用の部屋です。この施設は統合ケアを行っているので、いろいろな地域のサービスセンター施設の機能も兼ねていますので、教会とか集会所とか、多目的なホールを持っています。
 次は介護スタッフの教育の問題です。私どもが訪問したところは「社会福祉健康管理専門学校」と「高等職業専門学校」です。ここもちょうど行きましたときが卒業式の日でした。この専門学校では、高齢者向けの身辺介護スタッフの教育を行っていて、学習カリキュラムは3年間で120単位、1単位は40時間ですから、びっしりと3年間勉強しなければいけないようになっています。また、インターネットを利用した教育に一生懸命取り組んでいます。先ほど言いましたように、フィンランドは非常に人口が少なく国土は広いので、すぐ近くの学校に通うということはできないわけです。必要としている技術を身につけたい場合に、日本の東京ですと電車で通える範囲に学校がありますが、フィンランドではそうはいきませんので、今、インターネットで教育をしていこうとしているわけです。つまり、インターネットを使って、学校へ通わなくても勉強ができるようなシステムを作って提供していこうと、この専門学校では行っています。
 もうひとつ非常に大事になっているのが、痴呆症の介護と健康管理です。この専門学校でも、痴呆症の介護に対するスタッフの教育には非常に力を入れていました。家族が痴呆症の方を介護をできない3大理由の調査結果や、実際に介護サービスをするときに考えているモデルなどを教えていただきました。特に力を入れているのは、痴呆症のケアのガイダンス、小さなグループで介護をするユニット型の施設、在宅で介護をする家族のケアということでした。1カ月ほど前に東京都が発表した統計によると、日本でも90%くらいの人が最後まで在宅でケアをしてほしいと希望しているということで、どこの国でも最後まで在宅でケアをしてほしいと思っているようです。

フィンランドにおける痴呆高齢者の介護について【3】


生活行動の観察から高齢者のシグナルを把握し、

痴呆性高齢者を介護する


 大事なのは、痴呆症の高齢者を介護するときの目標です。基本は日常生活の行動をきちんと観察するということです。それもできるだけ客観的に観察すること。それを分析して、次の介護を改善するような方向で進んでいきます。それから、QOL(生活の質)を落とさないということです。介護する側の都合で、高齢者、特に痴呆症の高齢者の人の日常生活の水準を落とさないようにしていくこと。そのための介護技術というのを作っていきます。それから痴呆症の初期段階をできるだけ長く維持すること。在宅期間を長くするということに加えて、介護する側の負担をできるだけ小さくすることができます。そのためには痴呆症の人のことを理解していく人間的な介護が求められているわけです。最近フィンランドでも非常に大事になっているのが、家族だけではなくてコミュニティにも痴呆症の理解を求めて、コミュニティ型の介護をしていこうということです。たとえばパキラの老人ホームでも、痴呆症の方が動かなくなってベッドから出てこなくなると、長い人で2週間、普通の人で1週間で天国へ行くと言われています。日本のようにマカロニ症候群と呼ばれるような高濃度の終末ケアを施さない。ですから、できるだけ自分の足で動いて生活をしていく、そのためにはコミュニティにも痴呆症に対する理解が必要だというわけです。

 フィンランドでも、現在ではグループホーム型施設の方向に進んでいます。ユニット型ケア、10人くらいずつで共同生活をするように仕切って、たとえば500人の大きな施設でも50のユニットを作って、10人くらいで生活をしていくという方向になっています。もちろんコストを下げるということもあるのですが、大事なことは非常にきめ細かいサービスを行うためということです。たとえば朝食に関しては、早い人は5時頃起きる人もいますし、9時頃起きてくる人もいますが、朝食サービスは起きてきたときに受けられるようにしています。朝早くから誰か介護スタッフの人が待機していて、朝食は本人の希望の時間に食べることができます。そしてお昼と夕食は決まった時間に食べるようになっています。食事をするときも大きなテーブルにみんなが並んで食べるという風景はあまりなく、2人で向かい合って食べるという形式をほとんどの施設がとっています。ですから、いつも同じ人とペアになって食事をとるほうが、特に痴呆症の高齢者の場合には良いのではないかということを観察結果から導き出して、ユニット型ケアへ移行していったということだと思います。

 フィンランドの場合は、痴呆症の高齢者は誰が受け持つのかということに関しては、中心は家族と専門の教育を受けた介護スタッフということになっています。そのほかの自治体などはあくまでもサポーターであるということで、介護の中心は家族と介護スタッフが一生懸命行っています。

 先ほども少し話しましたパキラの老人ホームは、民間経営型の老人ホームで入居者の90%以上が痴呆症の高齢者であると言われています。資料の図にあるように片足ずつをあげて、足の筋肉・力が落ちないように、足の運動を頻繁に行っています。右側の写真は、「回想法」を行っているところです。古い話を思い出したり、いろいろな昔話に花を咲かせています。写真の左側の人がスタッフで、かなりしっかりとしたマニュアルに基づいて、非常にレベルの高い回想法を行っていました。この左の上のほうの写真は、みなさんが講堂に集まって、今から30〜40年ほど前に流行っていた歌などを歌っているところです。これも一種の回想法だと思います。この写真の右側の黒い服を着て立っている人が、老人ホームの施設長で、今日来ていただく予定だったアリヤさんです。その左側に座っている人は痴呆症のお年寄りです。声をかけるときちんと返事をしてくれて、 みなさん、楽しそうにしていらっしゃいました。この写真も同じく痴呆症の高齢者の方が居間で座ってうたた寝をしたり、音楽を聴いたりしているところです。一番左側にあるのがフィンランドで使われているワンタッチ式のサウンドシステムです。音楽だけではなく、昔話ですとか、様々なサウンドを入れてあります。この左の写真は、入居者の書いた日記です。痴呆症の方に対しても、毎日のようにできるだけ字を書かせています。もちろん、他の人が読めないような字を書いている人もいますが、中には、このようにしっかりした字を書く人もいますと言って見せてくれたものです。

iWELL 福祉健康開発計画

2002-2003


 フィンランドでは、高齢者、特に痴呆症の高齢者のための技術開発を一生懸命やっています。主に研究開発をしているのは「テケス」。「iWELL」のiはインディビジュアル=個人という意味で、「個人の福祉」に関する新しい技術を作っていこうということです。新技術と言うと介護になじまないと考える方もたくさんいますが、技術というのは介護をサポートするための道具で、技術があれば介護ができるというものではありません。あくまでも介護をするスタッフをサポートするために技術を開発しているわけです。
 日本と少し違うのは、主に大学の先生が中心になって、現在使える一番新しい技術を積極的に取り込む。そしてある程度使えるようになったものは民間会社に製作を委託して、それを自治体が購入して使っていくという仕組みができていることです。ですから、思い切って新しい技術が介護の世界に取り入れられます。また、企業が中心になって行うと、ほかの研究所が遠慮してしまうことなどがあり、新しい技術がなかなか取り入れられないのですが、フィンランドの場合はそういうことがないように、新しい技術こそ介護などの必要としている世界に早く入ってくるようにな仕組みを作っています。フィンランドの特徴として、企業と大学の間での交流が非常に活発に行われています。[iWELL」の目標は、「福祉・健康に関するサービスと技術を在宅、労働、余暇の 市民に提供する」ことです。先ほどお話ししたように、新しい技術を開発して外貨を稼ぎ、それで質の高い福祉サービスを国民に提供していくという姿勢です。

 具体的な機器としては、先ほど少しご紹介した「シルバーバード」という音響機器。ボタンを押すだけで、音楽ですとか、昔話ですとか、いろいろなサウンドが流れてきます。ワンタッチで操作できますので、ある程度の痴呆症の方でも操作できるようになっていて、割と評判が良いと聞いています。

フィンランドにおける痴呆高齢者の介護について【4】


 次に「徘徊者位置検索システム」。痴呆症で徘徊した人を検索して探し出すシステムです。日本と同じように、徘徊するお年寄りは結構います。施設に入っていても徘徊する人はいます。徘徊するからといってしないように縛り付けるのではなく、早く連れ戻そうという方向で、このような技術を開発しています。

 「VIVAGOリストケアシステム」。腕時計型の体の信号を受信するシステムで、たとえば心臓の脈拍がおかしくなった場合には、真ん中のボタンを押せば最寄りの医者に自動的につながって、モニターしてもらって、必要に応じて救急車を派遣してもらうなどができるようになったシステム。日本にも緊急連絡システムとして電話などと連動したものがありますが、これはもう少しいろいろと体の信号なども受診して送信できるようになっています。このシステムを使って、たとえば筋電図がどうなっているかなども調べられますが、上の方が正常な人の筋電図ですが、深夜には寝ていますのでほとんど動いていないのが、下のほうは8 1歳の痴呆症の方の波形で、深夜でも筋肉が動いているということなどがモニターできるわけです。

 これはオウル大学の研究システム、「nnHACS(マルチメディア在宅生活支援コミュニケーションシステム)」。実験段階のシステムですが、画面タッチでテレビ会議ができるようなパソコンシステムで、インターネットを使ったテレビ会議とか、テレビ電話システムと連動しています。

 これは「リモートアイ」。特に一人暮らしの痴呆症の方の在宅の生活をモニターします。最近、日本ではロボットなどがありまして、行き先をあらかじめ指示すると動いていって映像を見せてくれる、それと非常によく似たコンセプトでできていますが、介護する側にとって非常に便利だということで使われています。

 それからこれは、「未来のロボット」ということで、一部動き出しています。お年寄りの人がたとえば町に買い物に行くというときも、行き先をあらかじめセットしておくと、自動車のカーナビと同じように、今どこを来てるかで、「ここの角を右に曲がりなさい」などということを指示してくれるわけです。お年寄りになると、だんだん町に出ることが少なくなって、頻繁に行っているところはいいのですが、時々行くところや、たまにスーパーとかデパートに行くというときに道がわからなくても、これを使えば人に頼らずに出て行けるということです。こういう技術ですと日本のほうが、たくさんの技術を持っていると思いますので、協力して良いものが作れるのではないかと考えています。

 ご存じのように、フィンランドには携帯電話の「ノキア」という会社がありまして、携帯電話では先進国と言われています。その携帯電話で診察の予約から、どこの病院で診察を受けてもらうか、などすべての医療サービスが受けられる技術をつくっています。加えて、高齢者が移動するためのシステムを今一生懸命考えています。そのほかにも、お年寄りにゲームを楽しんでもらいながら、このお年寄りはどういうことができなくなりつつあるかということを観察
することを合わせた、ひとつのシミュレーションを行うということを今、考えています。いろいろな技術が開発されていて、詳しくは資料にありますので、そちらをご覧ください。以上で終わります。ありがとうございました。